サレジオ会は青少年の教育を使命とする修道会である。創立者は十九世紀、北イタリアのトリノ市を中心に「孤児の父」と慕われた聖ヨハネ・ボスコで、かれ自身も三歳のときに父を失ったが、九歳のときに天からの示しを受けて、苦学の末、司祭になった人物である。この天の示しは教育と福祉のために働くことになる使命を暗示しただけでなく、後年、かれが予防教育と名付けた教育法、罰と強制ではなく愛と納得に基づいた指導法を示している。この示しは、かれの生涯の転機に繰り返し現れて、サレジオ会の教育と福祉の事業の進むべき方向を示したのである。
サレジオ会の特徴は、子どもたちを、修道会の本質的な構成要素として受入れることである。サレジオ会にとって、子どもたちは事業の単なる対象者ではない。かれらの教育上、養護上の利益は優先的に考慮され、会員の生活のあり方までも規定すると云ってよいだろう。第十九回総会議は、サレジオ会の事業と精神の原点は、ドン・ボスコの最初の事業であるヴァルドッコの「少年の家」であると決議した。当時そこでは、初代サレジオ会員は、子どもたちの学習室で勉強し、子どもたちの唱える祈りを朝晩一緒に唱え、子どもたちの寝室でやすみ、グランドでは子どもたちの遊びの輪のなかにいた。それは中世以来の修道生活の聖なる伝統とは全く異なるもので、こうしたサレジオ会の新しい修道生活の様式は、当時の教会当局からは異端視されたほどであった。だがドン・ボスコは、教育者と生徒が徹底して生活を分かち合うこの方法をアッシステンツァと呼び、サレジオ会の精神の本質としたのである。
今回の総合計画に当たって、このアッシステンツァの理念は「可能なかぎり最善のものを子どもに与える」という合意の形をとって、基本計画から竣工まで、終始、関係者をまとめ、導いていったのである。
ところで養護施設は、多くの子どもが乳児から青年になって自立していく日まで、人生の一番大事な時期を過ごす住いである。また生きることの喜びを感覚する場である。園舎と処遇のあり方は、相互に関係しながら、子どもたちの成長に決定的な影響をおよぼす。
学校も子どもたちが育ち、育てられていく大事な生活の場である。教室のたたずまい、中庭、階段、廊下と続く雰囲気、細部のディテールなど、美しい自然と豊かな空間に囲まれて、子どもたちは知らず知らずのうちに多くの影響を受け、多くのことを学ぶのである。
私たちは、こうした視点から共通の理念に基づいた学校・学園の建設に踏切った。それは微力なわたしたちの力を遥かに超える困難な仕事であったが、天の摂理は二人の建築家を送ってくださった。阪田誠造氏と藤木隆男氏は、サレジオの教育と養護の理念を深く理解されて、それを見事に建築のうちに表現してくださった。わたしはあらためてお二人と建築に携われた全ての関係者に深甚の感謝を捧げる次第である。
村上康助 (サレジオ学園理事)1996年6月
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